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私は、ある社団法人の光ディスク委員会に参加しています。この委員会では、各メーカーからメンバーが集まって、業界の有識者、PC関連の関係者とのヒアリングや、メーカー各社へのアンケート調査等の光ディスク(ドライブ)業界の現状調査から、今後の動向をうかがうことを目的に活動しています。 ここでは、本光ディスク委員会の活動から得られた知見から、私の私見として、今後の光ディスクの動向と、期待と警告を述べたいと思います。
1.振り返り
CDからDVD、そしてブルー世代へと確実な技術進歩と、そのたびごとの市場の拡大をしてきた(ブルー世代は、まだ立ち上がり始めたばかりですが)光ディスク産業は、PC向けドライブだけでも年間3億台の市場規模に達しようとしています。今やほとんどのPCに光ディスクドライブ装置が搭載され、家庭には光ディスクを搭載したレコーダが普及してきました。兎にも角にも、これだけ大きな市場を形成できたのは、多くの人、企業の努力の賜物であると思います。
今、事実上の規格統一がされたブルー世代が、いよいよ市場で成長を始めました。昨年の日本市場でのレコーダでは、ブルー世代ドライブを搭載したハイエンドモデルが、品薄になるほど売れ、この勢いは、PCへの搭載につながるという勢いです。
2.問題提起
ブルー世代の立ち上げに、携わっている人たちは、CDやDVDで得た経験を踏まえて、慎重に進めようとしているように感じます。確かに、巨大な市場になった光ディスク市場ですが、過去、そして現在を振り返ってみると、必ずしも100点満点の出来ではないように見えます。次の項目が、私が感じている問題点です。
| @ |
過度の価格競争により、メーカーが利益を得られない事業構造。 |
| A |
倍速競争に代表されるようなユーザベネフィットから見ると必要以上のスペックを追求した不毛な競争(18倍速ドライブでも、最高速で動かすと振動・騒音がうるさいので減速して使用しているユーザが多いようです)。 |
| B |
毎度毎度の規格戦争。しかも日本企業間同士の戦い。これから得るものの少なさと、市場の混乱。 |
3.ブルー世代
これは想像ですが、たぶんブルー世代立ち上げに携わっている人は、上記のことを十分に痛いほど理解していて、繰り返さないようにしたいと強く思っているに違いありません。Bの規格戦争が終わったことは、喜ばしいことではあります。残念ながら去り行く陣営の、特に、エンジニアや標準化を行っていた人たちの口惜しさを痛く感じますが、特別な特徴をもたない複数の規格があるということは、ユーザ視点で考えると、混乱を招くだけのものであると思います。もちろん、各々の規格は特有の特徴を謳っているのですが、現在のユーザがその特徴を生かした各規格製品をきちんと使い分けているようには見えません。この規格戦争がもたらした結果から得たものは、必要以上の倍速競争(A)や、全規格をサポートするスーパーマルチドライブの開発が必要となったことによる開発工数の増大、などマイナス面があります。唯一のプラス面は、規格戦争を周囲が煽り立てたり、プロモーション合戦により、市場認知を早める事ができたりしたことです。いずれにしろ、ブルー世代では、事実上の規格統一ができたので、Bの課題はなくなりました。
Aに関しても、DVDの二の舞を踏むことはないであろうと願います。もちろん、高速化の技術検討、標準化準備は進められていますが、必要以上の高速化を望む声は、今のところ、強くは聞こえてきません。現在、PCがデスクトップ型よりもノート型が売れてきていることや、デスクトップ型といってもPCがデザイン性を重視するようになったことからスリム型ドライブ搭載が増え始めています。これらを背景にして、ドライブは、ハーフハイトサイズからスリムサイズの方に移行しようとしています。私が参加している光ディスク委員会でも2010年には、スリムサイズのドライブの方がハーフハイトサイズよりも多くなると予測しています。スリムサイズのドライブでは、高速にディスクを回す事ができません。このこととも絡んで、倍速競争は、DVDのような過激なものにはならないと思うのです。
問題は、@です。光ディスク市場がこれほど大きく成長して、いったい、誰が利益を得たのでしょうか? それどころか、最近は光ディスクから撤退する企業が現れています。確かに市場原理では、成長期においては競争から脱落する企業が出てきてプレーヤの数が適度に減り、その後、安定期に入ることになっています。安定期では、残存者利益を得て企業が潤うということになっています。現在、ブルー世代は立ち上がり始めましたが、光ディスク産業全体を見ると、安定期に入ってきたと見る人もいるようです。ここで残念に思うのは、利益をたたき出せていない企業や撤退する企業に、日本の企業が多いということです。現時点では日本の企業が多いが、今後は海外の企業も撤退をしていくのかもしれませんが(いくつかの海外のメインプレーヤも撤退をしています)。私は、ここに日本の企業が抱えている大きな問題を感じます。市場がいつかは安定期に入ることは誰でもはじめからわかっていたことです。そこを生き残るために日本の企業は、どんな仕込み・仕組みを作っておいたのか?というと、なかったのではないか?と疑わざるを得ない。ドライブは、PCやレコーダの部品ですから、市場が大きくなるほど価格競争が激しくなり、やがて海外のメーカーが参入してくることはわかっていたはずですよね。それに対する対策をちゃんと作っていなかったのではないかと感じるのです。むしろ反対に、海外のメーカーに技術支援をして育ててしまったのではないでしょうか?
4.そこにあるもの
PCの部品といえば、メモリーや光ディスクのように、初めは参加プレーヤが多いが価格競争激化で参加プレーヤが減っていくものと、CPUやOSのようにはじめからプレーヤが少なく利益をその時々にきちんと取りながらメーカーが成長していくものとの2つに分かれています。この違いは大きいですよね。ある人は、ブラックボックス化が重要なKFS(Key For Success:成功の鍵)だと言います。私は、そうは感じていないのです。KFSは、「はじめからプレーヤを少なくして、過度の競争をしないでやってきた」と方針を決めていることだと思います。ブラックボックス化は、それを実現するためのひとつの手段に過ぎません。さらに、自分たちの利益の取り分を確保するために、メモリーや光ディスクの価格競争を利用して、PCの価格を下げ、PCの市場を拡大しながら、自分たちの製品の価格を維持してきていたように勘ぐります。そして、この方法は、ビジネスのやり方として、有りだと思うのです。
日本の企業は、古くから欧米諸国に追いつけ追い越せで技術革新を続け、ようやく追い抜く事ができてきました。そうなると日本の企業が立つ舞台が完全に変わってしまいます。目の前のランナーを無我夢中で追いかけているのと、目の前の道を自分で探しながらトップランナーを維持するのとでは、やり方も考え方も、そもそもビジネス構造そのものを変えなければならないはずです。光ディスクは、初めから日本の企業がトップランナーであったにもかかわらず、見えない(実在しない)トップランナーを追いかける従来のやり方で、進めていたのではないでしょうか?だから、無闇な規格競争や、自ら敵を作っるような結果の海外メーカーの技術支援を行い、常に何かを追いかける環境を自ら作り続けてきていたのではないでしょうか?
以上は、私の私見です。 しかし、同じように感じている人はきっと多いと思います。
5.期待
もし、今、タイムマシンに乗って、光ディスクの創世記に戻ったと仮定したら、どのようなやり方がいいのでしょうか?
現在の多くの企業で採用されている手法ですが、手に入れた技術と、マーケットの将来性(成長可能性)との両方を見るやり方を使って、当時に戻って、見直ししてみましょう。
当時のPCにはフロッピーが搭載されるのが主流でした。HDD搭載がやっと始まったばかりでした。もちろんCD-ROMなどの光ディスク装置は姿かたちがありません。まだPCの普及が始まったばかりの時代ですが、この当時でもすでに、将来にデータ容量が大きくなっていくことを誰もが予測していました。マーケットの将来性を考えれば、一歩踏み込んで、これからはデジタル化の時代になるのだと判断することはできたと思います。当時あったレコード、テープ、紙、何もかもみんなデジタルコンテンツを格納する物に変わると判断することは、今となっては当たり前でしたが、当時も先見の明がある人達ならわかったはずです。そこまで、見えたら、研究室で産声を上げようとしていたデジタルデータの記録が可能な光ディスクは、とてつもない市場に化けるのではないかと読むことは、自然にできたことですよね。この時点で、そう読んだ人は武者震いがしたはずです。ものすごく巨大な市場が今生まれようとしていることを知ったわけですから。さらにもう一歩すすんで、このビジネスチャンスを自分たちの会社だけで独占しようとしないで、日本発の、そして、日本がトップランナーとして先頭を切るビジネスを作ろうと考えることが重要です。ここまで方針ができれば、後は方法論です。少なくとも、今までと同じ考え方でビジネスを始めると、多くの企業が参入してきて過度の価格競争を招くようなことは予測できたはずですから、何かほかの方法を考えるべきです。例えば、光ディスク装置というハードウエアのみにとらわれずにアプリケーションまで含めた市場を想定したビジネスの形を考える方法もあります。関係するビジネスを含めて大きく捕らえることは、とても有効な方法です。この方法で最も大切なことは、ユーザ視点で考えるということです。市場(ユーザ)が求めているのは、デジタルデータを記録できる箱(あるいは円盤)そのものではなくて、当時あったいろいろな記録媒体が持つ不便性(保存寿命、レコードのノイズ、取り扱いの不便さ、など)を解決してくれるということそのものなのです。先ほどPCのCPUの例をあげましたが、CPUは高速演算してくれるチップでしかありません。これだけでは何も便利さを生みません。しかし、これにOSやソフトと連携することにより、表計算やデータ処理を高速で行えるという、ユーザにとって便利なものが生まれ出て、それが、市場に受け入れられるのです。そして、ユーザにとって便利なものを提供する事が、事業として適正利益を得る事につながるのです。ここまで考えなければいけません。もちろん当時も考えていたのでしょうが、日本の企業の多くは、光ディスク装置という箱を作ることに集中しすぎてしまい、最終的にユーザへ便利さを提供するところまで、手が届かなかったように感じます。 光ディスク装置というハードウエアのみにとらわれずに、アプリケーションまで含めた市場を想定するということは、具体的にどういうことでしょうか? 私は、光ディスクというハードウエアを作る企業と、アプリケーションを作る企業とが、分業して互いに助け合ってユーザへ便利さを提供する。あるいは、ひとつの企業が両方を行う。などのことができたら、今のような、過度の価格競争はそれほど起こらなかったのではないかと考えます。いろんな優秀な企業が、それぞれ自分の得意とする部分を分担して、協力し合いながらユーザへ便利さを提供する構造です。これであれば、各企業の開発力は、過度の競争を招くような、「誰もが同じものを開発ターゲットにしている状態」を避ける事ができます。ユーザはシステムを購入するわけですから、そのシステムを構成するパーツには直接的に魅力を感じません。よって、パーツは安ければ安いほどよいのです。また、パーツメーカが多すぎると当然今のような価格競争が起きて、システムメーカーに利益を摂取されてしまうという構造が生まれがちです。高度な技術を要求されて、開発に莫大な資源を投入しても、パーツであるという理由から、さらには、多くの企業が参入してきてしまったという理由から、適正な価格で売る事ができない。一方で、システムメーカーは、ユーザに最終的な便利さを提供することで、適正価格で販売する事ができる。そして、市場シェアを握っているシステムメーカーはそれほど多くない。この構造が、今の状況だと思います。
日本の企業は、高度な技術開発を伴うものに活路を見出そうとする癖があるように感じます。そして、多くの企業が同じものを目指して開発を行う癖もあるように感じます。このために、光ディスク装置のような高度な技術を必要とするがパーツでしかないものは、過度の価格競争を招いてしまう。以上をまとめると、ビジネス戦略に考慮するべきことが以下のようになります。
| @ |
システムまで含めて、提供すべきユーザへの便利さとは何か?をます初めに考える。そして、これを唯一無二の大原則としてこだわり続ける。(全体を見る) |
| A |
そのために必要なものは何か(アプリケーションを含む)?を導き出す。(構成を見る) |
| B |
他社と同じ物(あるいは似たようなもの)を作ることを目指さない。(独自性を考える) |
| C |
システム全体を自社で提供する事ができないのであれば、自社はそのシステムのどの分野に注力するか? 自社で作れない他の部分を他社と協力して、ユーザに便利さを与えるシステムを作り出す方法を考える。(ユーザへの便利さの提供を主軸とした業界を作る) |
ひとつのパーツは、複数のアプリケーションとつなげることで、複数の便利さをユーザに提供できる場合があります。システムを構成する各パーツを作る各社や、複数のアプリケーションを作る複数の企業が、各々に、あるいは、協力し合って、プロモーションを行って多方面への市場を創生しながら、ドライブ市場のみならず複数のアプリケーション市場(この中には、PCを含みます)を広げてゆき、イニシアチブをとることができたらなぁと考えます。
この想像の根底には、ドライブはあくまでも部品・アプリケーションの実現手段であり、単純な価格競争になりやすい。そうなると、コスト力のある他の国の企業にやられてしまうというリスクが発生する。ここに付加価値を求めないで、アプリケーションを広げていくことで、ユーザベネフィットを追求して市場を拡大させ、手段としての必要不可欠なドライブも適正利益を得られるようにするという考え方(コンセプト)があります。
後からなら何でもいえるよ!ということでしょうが。似たような事が、現在、ほかの分野にもあるのではないでしょうか? 光ディスクにおける経験を、今後の日本のビジネスのあり方に少しでも役に立つ事を、心から願っています。
そして、最後に、ここまで光ディスクを立ち上げるために、多くの努力を惜しまないでやってこられた先輩方に、心からの感謝を、私は、きっと、ずっとし続けることでしょう。それが、現在の私の大切なモチベーションなのですから。
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